キャッシュレスと消費増税の関係(なぜいまキャッシュレスなのか)

対象店舗においてキャッシュレス決済で買い物をした消費者に、最大5%のポイント還元を行われる「キャッシュレス・消費者還元事業」。消費税が8%から10%に引上がった2019年10月1日から、オリンピック・パラリンピック開催直前の2020年6月末日までの9か月間が対象となります。旗振り役は経済産業省。なぜこのような還元事業が国策として推進されているのでしょうか。

理由は次の2つに集約されます。
(1)店舗まわりの生産性向上のため・消費者の利便性向上のため
(2)増税による景気の冷えこみを抑えるため

働く人たちの生産性向上は、日本の経済成長率を引上げたい国にとっての最重要課題です。消費者の間で「クレジットカード」「QRコード」などの利用率が上がり、キャッシュレス決済の対応店舗が増えれば、あらゆる店舗で現金管理コストの削減を期待できます。人口増加を簡単に望めない日本のような国では、人口減少を生産性向上で補うことが、今後の経済成長のカギを握っているのです。

そこで「キャッシュレス化」が国策として推進されるようになりました。2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」に盛り込まれ、2027年までにキャッシュレス決済比率を4割程度に引き上げる目標を掲げています。今回の「キャッシュレス・消費者還元事業」は、その推進策のひとつです。消費税が8%から10%へ引き上がる2019年10月以降、景気の冷えこみを抑制するため、そしてキャッシュレス化を推進する意味合いもかねて、最大5%分のポイント還元制度を実施するに至りました。

増税による消費の冷えこみには、国や事業者にとって手痛い前例があります。それが消費税5%から8%へ引き上がった2014年4月。同年1〜3月の実質GDP成長率は、駆け込み需要が寄与して前年比で6%増えたものの、増税直後の4〜6月は前年比7.1%も減りました。三菱UFJ&コンサルティングが2014年11月にまとめた資料では「特に低所得者層への消費落ち込みが深刻」と分析されています。

この還元事業は、キャッシュレス決済を負担なく導入したい中小・小規模事業者を支援する制度でもあります。登録者数は順調に増えており、経産省の発表によれば、2019年12月21日時点の登録申請数は約97万店。登録加盟店数は約94万店に及んでいます。

キャッシュレス決済による消費者還元事業と消費税の軽減税率対策補助金

「キャッシュレス・消費者還元事業」と少し似た制度に、「軽減税率対策補助金」があります。どちらも中小・小規模事業者の生産性向上を支援する制度には違いないのですが、補助内容が一部で重なっています。正しく理解をするために、2つの違いを明確に把握しておいたほうがよいでしょう。

「キャッシュレス・消費者還元事業」では、キャッシュレス化に必要な3つのコストが補助されます。

(1)決済手数料
決済手数料は、取引金額に応じて決済事業者に支払う加盟店手数料のことです。料率は決済事業者やプランによって異なりますが、還元事業に加盟すれば期間中は、中小・小規模事業者は「実質2.17%以下」で利用できます。ただし「フランチャイズチェーン」や「ガソリンスタンド」などは手数料の補助対象外のため注意が必要です。

(2)決済端末
カードリーダーなどの決済端末の導入費を指します。中小・小規模事業者は負担ゼロで導入できますが、「フランチャイズチェーン」や「ガソリンスタンド」などは補助対象外です。

(3)ポイント還元
取引した顧客に還元されるポイントの原資を国が負担します。中小・小規模事業者は5%、「フランチャイズチェーン」「ガソリンスタンド」などは2%と決まっています。

一方の「軽減税率対策補助金」はどんなものでしょうか。これは消費税軽減税率制度に伴い、複数税率対応レジや受発注システム等の改修・交換に要する経費の一部を補助するものです。消費税が10%に引上がる際、生活必需品や新聞など一定条件を満たした商品は税率8%に据え置く制度です。品物によって税率が変わるため、レジ機器や管理システムを改修・交換しないと業務が煩雑になる店舗がたくさん出てきます。こうした中小・小規模事業者を支援する制度なので、キャッシュレス還元制度とは意味合いが明確に異なります。

先の「キャッシュレス・消費者還元事業」と重なる支援内容は、ひとつだけ。それが「キャッシュレス決済端末等の導入」にかかわる補助です。ただし自己負担割合は異なります。「軽減税率対策補助金」を使って端末を導入する際は、レジ本体と合わせた導入経費のうち4分の1が自己負担となります。一方、「キャッシュレス・消費者還元事業」は、自己負担がありません。なお、2つの補助制度は「併用可能」とされていますが、「軽減税率対策補助金」の申請期限は2019年12月16日まで。受付けは終わっているため注意が必要です。

(※)軽減税率対策補助金の概要と申請について

キャッシュレス決済に伴う消費者還元事業の対象事業者と取引

中小・小規模企業であれば無条件で支援を受けられるわけではありません。「キャッシュレス・消費者還元制度」には、対象外の業種・取引があり、また対象業種でも、業種によって基準となる資本金・従業員数が変わってきます。

補助“対象外”の業種・取引は以下の通りです。

図表①

一方で対象とされる業種が次の4つ、「製造業その他」「卸売業」「小売業」「サービス業」です。基準となる資本金額、従業員数は下図の通りです。

図表②

ただし、上図の条件にも例外があります。それが次の2つです。課税所得や事業規模が該当していないか、注意してみましょう。

・確定している(申告済みの)直近過去3年分、または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超えているケース
・フランチャイズ本部、ガソリンスタンド会社の直営店。また大企業に該当するフランチャイジー

キャッシュレス・消費者還元事業の実施期間と参加方法について

「キャッシュレス・消費者還元事業」の参加申し込みは、2020年4月末まで、還元事業の実施期間は、オリンピック・パラリンピック開催直前の2020年6月末までとなります。

参加手続きは、キャッシュレス決済事業者経由で行うことになります。決済事業者を選んだら、決済事業者からの求めに応じて、次の必要書類などの提出が必要になる場合があります。
・営業実態の確認書として認められる書面(開業届、確定申告書など)
・業種にかかわる許可証、免許証
複数の決済事業者を使う場合は、それぞれの事業者経由で申請が必要になるため注意が必要です。

加盟店登録が完了したら、ポスターやステッカーなどの店頭用広告キットが届きます。基本的な手続きフローは以下の通りです。

1 申請
2 加盟店登録(ここまで数日〜2週間程度)
3 加盟店ID発行(数日)
4 申請手続き(数日〜1カ月程度)
5 システム連携(2週間〜1カ月程度)
6 還元開始

まとめ

キャッシュレス決済を導入すれば、店舗の現金管理コストの抑制につながるため、経営効率が良くなります。そのキャッシュレス決済を自己負担ゼロで始められる上に、消費者にポイント還元される「キャッシュレス・消費者還元事業」への参加はメリットの塊と言えるかもしれません。登録加盟店数は約94万店と社会的関心の高さがうかがえます。ただし対象業種・規模・取引に一定の制約があり、実施期間、参加申し込み期限が定まっているため注意も必要です。同事業への参入を検討している方は、早めの動き出しがおすすめです。

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